前回、学力を上げるのはダイエットと同じで「問題を解き、直しをすること」というシンプルな原則をお伝えしました。しかし、いざ「直し」を始めようとすると、多くの人が壁にぶつかります。
「解説を読んでもさっぱりわからない」 「直すべき問題が多すぎて、どこから手をつければいいのか絶望する」
こうした悩みに対する処方箋が、今回お話しする「○・△・×の仕分け術」と「諦めの線の引き方」です。テストで30点しか取れなかった子が、短期間で80点まで駆け上がるための、最も効率的な戦略を公開します。
目の前の問題を「3つの色」に分ける
勉強ができる人とできない人の決定的な違いは、問題を解き終わった後の「仕分け」の精度にあります。直しを始める前に、すべての問題を以下の3つの状態に分類してください。
- 【○】:自力で解ける問題(何も見ず、迷わず正解できた。再現性がある。)
- 【△】:解けそうで解けない問題(解説を読めば「あぁ!」とわかる。ケアレスミスをした。あるいは、以前は解けたのに忘れていた。)
- 【×】:全く手も足も出ない問題(解説を読んでも宇宙語に見える。前提となる知識がそもそも欠落している。)
多くの不調に悩む受験生や学生は、この「△」と「×」を混同してしまいます。「わからない」という一つの大きな塊として捉えてしまうから、何から手をつければいいか分からなくなるのです。
「△」の正体は、100%「練習不足」である
学力を劇的に上げる鍵は、この「△」をいかに「○」に変えるか、という一点に集約されます。
実は、成績が伸び悩んでいる子の得点源の宝庫は、この「△」にあります。 「△」の問題は、「あと一歩」のところまで来ているのです。考え方は合っているけれど計算でミスをした、公式の使い方は知っていたけれど適用範囲を間違えた。これらは、能力の欠如ではなく、単純な「練習不足」です。
この「△」を攻略するためには、自分で調べ、何度も解き直すという地道な作業が必要です。ここで重要なのは、「やっている姿を誰かに見守ってもらう」ことかもしれません。塾講師や保護者が付き添い、「あ、ここまでは合ってるよ」「次の一手はどうする?」と声をかけるだけで、「△」は驚くほど速く「○」へと変わっていきます。
「×」問題には、勇気を持って「諦めの線」を引く
さて、ここからが本質的な戦略の話です。 多くの真面目な学習者が陥る罠が、「×」の問題、つまり「今の自分には難しすぎる問題」に時間を使いすぎてしまうことです。
「全部完璧に理解しなきゃ」という強迫観念が、学習の効率を著しく下げてしまいます。そこで提唱したいのが、「諦めの線」を引くという考え方です。
「諦める」というとネガティブに聞こえるかもしれませんが、これは「戦略的撤退」です。 今の自分の実力が30点だとしたら、100点満点のテストのうち、今の自分には「理解できない領域」が必ず存在します。そこを無理に追いかけるのは、装備を持たずに冬のエベレストに登るようなものです。
「諦めの線」の具体的な引き方はこうです。
- まずは「○」と「△」の問題を完璧にすることに全力を注ぐ。
- 「×」については、比較的易しそうな部分だけをかじる。
- 「×」の問題を最後まで自力でやり切ろうとしなくてもいい、と自分に許可を出す。
30点から80点へ。魔法のスコアメイク
ここで、具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。 あるテストで、あなたは100点満点中「30点」だったとします。 間違いは70点分ありますね。この70点の内訳を分析してみると、多くの場合は以下のようになっています。
- △(解けそうだった問題):40点分
- ×(手も足も出なかった問題):30点分
多くの人は、この「×(30点分)」の難問が解けないことに絶望し、やる気を失います。しかし、よく見てください。「△」の40点分を「○」に変えるだけで、あなたの点数は30点+40点=「70点」になるのです。
70点まで到達すれば、あとは「×」の問題の中から、解説を読んで少しでも理解できそうなものを拾い上げ、10点分だけもぎ取ればいい。それだけで合計「80点」です。
30点だった子が80点を取れば、周囲の目は変わり、何より自分自身が「やればできるんだ!」という強烈な成功体験を得られます。この「満足感」と「自信」こそが、次の学習への最強のガソリンになります。
完璧主義を捨て、賢い戦略家になれ
勉強は、全方位を同時に攻める消耗戦ではありません。 まずは自分の領土(○)を守り、隣接する開拓可能な土地(△)を確実に手に入れ、遠くの険しい山(×)は、いつか登れる日が来るまで遠巻きに眺めておく。
この「優先順位」こそが、学習を「苦行」から「攻略ゲーム」へと変える魔法です。 「全部やらなきゃ」という重荷を一度下ろしてみてください。そして、目の前の「△」にだけ、全集中してみてください。
さて、こうして少しずつ自分の「わかる範囲」を広げていくプロセスは、何かに似ていると思いませんか? 次回、最終回では、学習をより大きな視点で捉えてみます。「学習とは、深い森を探索することである」という哲学的な視点から、勉強の先にある「学問」の世界についてお話ししましょう。
【今回のまとめ】
- 問題を「○・△・×」に仕分けする。
- 「△」の原因は練習不足。ここを「○」にすることが最優先。
- 「×」には「諦めの線」を引き、戦略的に後回しにする。
- △を埋めるだけで、30点から70〜80点へのジャンプアップは可能。

